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満洲文字を知る
(8)モンゴル語を記した満洲文字
満洲文字は満洲語を記しただけではありません。他の言語、特にモンゴル語と漢語を記した
資料が豊富に残っています。ここではモンゴル語資料とその表記の特徴について紹介します。
現在見られる満洲文字モンゴル語の資料は18世紀後半以降のものです。代表的なものは、
『御製滿珠蒙古漢字三合切音清文鑑』(乾隆45年[1780])、『三合便覧』(乾隆45年[1780])、
『初学指南』(乾隆59年[1794])、『三合語録』(道光9年[1829])、などです。
表記の特徴としては、(1)モンゴル文字よりも子音や母音の区別が明瞭であること、(2)
清代モンゴル文語の読音が窺えること、の二点が挙げられます。
第一点については、ちょうど無圏点満洲文字と有圏点満洲文字の関係と同じことになります。
つまり、/k/と/g/のような清濁の区別や、/o/と/u/などの母音の区別が満洲文字によって明瞭に記されます。
ただし、円唇母音に関しては、満洲語よりもモンゴル語の方が豊富なので、音素と文字の対応は
一対一になりません。おおよその対応は次のとおりです。
モンゴル語の音素
/o/
/u/
/ö/
/ü/
|
満洲文字表記
「o」
「u」
「u」〜「ū」
「u」
|
この対応は同時期のハングルによるモンゴル語表記(『蒙語老乞大』など)によく似ています。
ただしハングルではモンゴル語/o/に対して「u」が用いられることもあるものの、「u?」の方が一般的な
ようです。
第二点については、次のような表記に当時の実際の発音がうかがえます。
文語
yeke<大きい>
kümün<人>
üsüg<字>
yin<属格語尾>
yi<対格語尾>
|
満洲文字表記
「ike」
「kun」
「ujuk」
「yen」
「gi」
|
表記は資料によって多少異なることがあり、例えば「kun」<人>がモンゴル文語の「kümün」と同じ綴りで
記されることもあります。
満洲文字表記のモンゴル語は、もちろん清代モンゴル語にとって重要な資料ですが、同時に満洲語
(あるいは満洲人)の音声研究にとっても貴重な情報を与えてくれます。
なお、最近の研究によれば、満洲文字によるモンゴル語表記は、トド文字によるオイラート文語の表記法から
強い影響を受けているようです。(cf.栗林均・斯欽巴図(2009)「『初学指南』と『三合語録』におけるモンゴル語の特徴---満洲文字表記モンゴル語会話学習書の口語的特徴---」『日本モンゴル語学会紀要』39)
(1)満洲文字とは何か?
(2)満洲文字の構造
(3)満洲語について
(4)満洲語の文献
(5)無圏点満洲文字
(6)文字表
(7)基本参考文献
(8)モンゴル語を記した満洲文字
(9)漢語を記した満洲文字---1.文献
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